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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)206号 判決

名古屋市千種区今池三丁目9番21号

原告

株式会社三洋物産

代表者代表取締役

金沢要求

訴訟代理人弁理士

半田昌男

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

指定代理人

宮本晴視

長島孝志

奥村寿一

涌井幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第18633号事件について、平成5年9月28日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年4月1日、名称を「パチンコ機のランプの緩み止め構造」(後に「豆ランプの緩み止め構造」と補正)とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をした(昭和60年実用新案登録願第48944号)が、平成3年7月31日に拒絶査定を受けたので、同年9月26日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第18633号事件として審理したうえ、平成5年9月28日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月1日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

「ソケットと豆ランプの口金との間に、前記ソケットの長手方向に沿って板状または棒状のゴム部材を介在させて、豆ランプをソケットに装着したことを特徴とする豆ランプの緩み止め構造」

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は、実公昭48-42781号分報(以下「引用例」という。)に記載された考案(以下「「引用例考案」という。)に基づいて、当業者がきわめて容易にすることができた考案であると判断し、実用新案法3条2項に該当し、実用新案登録を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願考案の要旨、引用例の記載事項、本願考案と引用例考案との一致点・相違点の各認定は認める。

相違点についての検討は争う。

1  審決は、相違点についての検討において、「両考案においてゴム状部材を介在させることの目的及び作用、効果において差がなく、そして、二つの物体間の接合力を強めて、換言すれば緩みを押さえて、接合するために二つの物体間に弾性を持つ板状のものを介在させることは日常経験していることであるし、その場合にそのような部材を、接合する物体に関して長手方向にするかそれに直交する方向にするかは、適宜なし得ることである」(審決4頁11~19行)と認定し、これを根拠に、「引用考案におけるゴム部材を板状のものとし、それをソケットの長手方向とすることは、当業者が極めて容易になし得たことと認める。」(同4頁19行~5頁1行)と判断したが、誤りである。

2  審決が判断の根拠とした上記認定事項中、「両考案においてゴム状部材を介在させることの目的及び作用、効果において差がなく、」との部分は、被告の後記釈明を前提に認め、また、「二つの物体間の接合力を強めて、換言すれば緩みを押さえて、接合するために二つの物体間に弾性を持つ板状のものを介在させることは日常経験していることであるし、その場合にそのような部材を、接合する物体に関して長手方向にするかそれに直交する方向にするかは、適宜なし得ることである」との部分が、一般論としては正しいものであることも認めるが、これらの事項は、「引用考案におけるゴム部材を板状のものとし、それをソケットの長手方向とすることは、当業者が極めて容易になし得たことと認める。」との判断の根拠になるものではない。

なぜなら、電気的接触を図らなければならないソケットと電球の口金との装着間隙には、電気的接触を妨げる塵埃等の異物の侵入を防ごうと考えるのが普通であり、現に、引用例考案においても、そのように考えられているのである以上、審決認定の上記各事項を前提にしても、ソケットと電球の口金部分との装着間隙に、塵埃よりはるかに大きい異物であるゴム状部材をわざわざ挿入して電気的接触を妨げるようなことは、当業者が上記一般的技術事項を前提に引用例に接したとしても、容易に想到できることではなく、仮に容易に想到できることであったとしても、少なくとも、きわめて容易に想到できることではなかったからである。

3  本願考案の構成が容易に想到できるものでなかったことは、引用例考案と本願考案の作用効果の相違を比較することによっても明らかとなる。

すなわち、両考案の間には、その作用効果に以下のとおりの大きな差異があり、このことは、本願考案に想到することの困難性を物語る以外の何物でもない。

(1)  引用例考案においては、ゴム状部材は、リング状をなしてソケットの円周に沿って介在するため、ソケットとゴム状部材とが互いに押圧しあい、また、ゴム状部材と電球の口金部分とが互いに押圧しあう関係にあるから、ソケットと電球の口金部分とは、ゴム状部材の作用により相互に離れる方向に押圧されて、両者の電気的接触を妨げる方向の力が働くことになり、これに対処する必要が生ずる。現に、引用例考案の実施例においては、電気的接触に悪影響が出ないようにするため、通電部の端部にゴム状部材を配置している。

本願考案においては、ゴム状部材は、板状又は棒状であるため、これを介在させた部分は、ソケットと電球の口金部分とがゴム状部材の作用により相互に離れる方向に押圧され、塵埃等の異物が侵入しやすくなるものの、反対側に口金を押圧することになるので、反対側の部分では、ソケットと電球の口金部分とは相互に押圧されることになり、両者の機械的接触をより密なものとすることができる。

(2)  引用例考案においては、ゴム状部材は、ソケットの内周に密着するリング状体であるため、基本的には、ソケット内周の異なるごとにそれに応じた径と形状のリング状体としなければならない。

本願考案においては、ゴム状部材は、板状あるは棒状であり、それを電球の口金部分とソケットの重合箇所の一部分に介在させるだけであるため、一種類のものですべてのソケットの内周に対応することができる。

(3)  引用例考案においては、ゴム状部材はリング状をなしソケットの円周に沿って介在しており、電気的絶縁物であるゴム状部材をソケット内周と電球の口金部分の間の全体に介在させると通電が不可能になることは明らかであるから、ゴム状部材は、電球のガラス製の円筒部(引用例第2図)あるいはこれと口金との境界部(同第1図)等に配設されることになり、そのため、電球から発する熱による劣化が著しく、所期の目的である長期間にわたる緩み止めという効果を奏しえない事態も容易に想像できる。

本願考案においては、ゴム状部材は、電球の口金部分とソケットとの間にソケットの長手方向に沿って介在するので、その一部だけはガラス製の円筒部に接触するが、他のほとんどの部分は接触しないから、電球から発する熱の影響を受けて劣化するとしても一部にすぎず、仮にその部分が劣化したとしても、全体としての緩み防止の機能は何らの影響も受けない。

(4)  引用例考案においては、リング状体をソケットの端口部内側(引用例第1図)、又は管状ソケットの両端部内側(同第2図)にあらかじめ介設した状態で電球を螺合着する構造であるため、電球を装着する前にリング状体をしっかりと固定しておかないと、装着作用が極めて面倒になる。

本願考案においては、ソケットにランプを装着するには、ゴム状部材の一端をソケットの外部に出し、他端をソケットの内部に入れた状態で、電球をソケットに螺合又は装入するだけでよく、あらかじめゴム状部材をソケットに止着しておく必要はない。

4  本願考案の構成に着想することの困難性は2に述べたとおりであり、このことは3に述べた本願考案と引用例考案の間の作用効果の差異によっても裏付けられているもかかわらず、審決は、これらを看過したため、上記一般的技術事項が本願考案にも当てはまると誤認して本願考案の構成の容易推考性の判断を誤り、このため誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

なお、審決が「両考案においてゴム状部材を介在させることの目的及び作用、効果において差がなく、」(審決書4頁11~12行)としたのは、本願考案も引用例考案も、ゴム状部材をソケットと電球の口金との間に介在させることにより、ソケットと電球の口金との間の緩みを防止するという課題を解決しようとするものである限度で共通であるとの趣旨であり、ゴム状部材を介在させることの目的及び作用効果のすべての点において両考案に差がないという趣旨ではない。

1  「二つの物体間の接合力を強めて、換言すれば緩みを押さえて、接合するために二つの物体間に弾性を持つ板状のものを介在させることは日常経験していることであるし、その場合にそのような部材を、接合する物体に関して長手方向にするかそれに直交する方向にするかは、適宜なし得ることである」ことは、審決認定のとおりであり、これが一般論としては正しいものであることは、原告も認めるところである。

引用例に、「本考案はソケツトに装着した電球が振動等により漸次弛緩したり装着間隙より水湿(原文の「水温」が「水湿」の誤記であることは明らかである。)や塵埃が侵入して通電作用を阻害することを防止する簡単有効な装置に関する。」(甲第3号証1欄19~22行)と記載されていることから明らかなように、引用例考案には、電球とソケットの間の緩みを防止するとの本願考案のものと共通する課題と、水湿や塵埃が侵入するのを防止するという、本願考案にはない課題が同時に存在する。

そして、引用例考案においては、これら二つの課題を同時に解決するものとして、ソケットと電球の口金との間にゴム状部材を介在させ、その形状をリング状として電球の全周に配置する、との技術が採用されている。

しかし、「二つの物体間の接合力を強めて、換言すれば緩みを押さえて、接合するために二つの物体間に弾性を持つ板状のものを介在させることは日常経験していることである」との上記一般的技術事項を前提に引用例をみれば、引用例考案の上記二つの課題のうち、電球とソケットの間の緩みを防止するとの本願考案のものと共通する方だけを解決するためだけであるならば、ソケットと電球の口金との間にゴム状部材を介在させるだけで足り、その形状をリング状体として電球の口金の全周に配置する必要がないことは、当業者にとって明らかなことである。そして、そうなれば、当業者にとって、「その場合にそのような部材を、接合する物体に関して長手方向にするかそれに直交する方向にするかは、適宜なし得ることである」(審決書4頁16~19行)ことも明らかである。

そうとすれば、本願考案の構成への想到は、上記一般的技術的事項を電球の緩み防止という引用例に開示された課題の解決に適用することにより当業者がきわめて容易になしえたものであることは、明らかといわなければならない。

2  原告は、電気的接触を図らなければならないソケットと電球の口金との装着間隙に電気的接触を妨げる塵埃等の異物が侵入するのを防ごうと考えるのが普通であり、現に、引用例考案においても、そのように考えられているのであるから、塵埃よりはるかに大きい異物であるゴム状部材をわざわざそこに挿入して電気的接触を妨げるようなことは、引用例に接した当業者にとっても、きわめて容易に想到できることではないと主張する。

引用例考案が、弾性部材であるゴム状部材を介在させて電球の緩みを防止するという課題のほかに、電気的接触を図らなければならないソケットと電球の口金の装着間隙に、電気的接触を妨げる塵埃等の異物が侵入するのを防止するとの課題をも有していることは、上記のとおりである。

しかし、引用例の実用新案登録請求の範囲に、「電球の通電部と該電球を装着するソケツトの通電部間に、ゴム又はこれと類似の絶縁性弾褥材より成る薄肉のリング状体を介設した電球とソケツトの弛緩防止装置。」(甲第3号証「実用新案登録請求の範囲」)と記載されていることから明らかなように、引用例考案においても、それ自体は電気接続を妨げるものであるゴム状部材がソケットと電球の口金の装着間隙に介在していることは、本願考案におけると変わるところはなく、そこで、ゴム状部材と塵埃等は異なった扱いを受けていることが明らかであり、塵埃等の侵入の防止という課題と絶縁体であるゴム状部材の介在という構成が矛盾するものではないとされている。

したがって、原告の上記主張は失当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  本願考案の要旨が上記のとおりであり、引用例考案が、審決認定のとおり、「電球の通電部と該電球を装着するソケットの通電部に、ゴムまたはこれと類似の絶縁性弾褥材よりなる薄肉のリング状体を介設した電球とソケットの弛緩防止装置」に係る考案であって、両者が、「ソケットと豆電球、すなわち豆ランプ、の口金との間に、ゴム部材を介在させて、豆ランプをソケットに装着した豆ランプの緩み止め構造の点で一致し」(審決書3頁18行~4頁1行)、両者の差異が、「本願考案では、介在させるゴム部材として板状または棒状のものを用い、それをソケットの長手方向に沿って介在させているのに対し、引用考案では、介在させるゴム部材として薄肉のリング状体を用い、これをソケットに対して介在させる方向を明記せずに単に介在させるとしている、具体例にはソケットの長手方向に直交する周方向に介在させている」(同4頁2~9行)点にあることは、当事者間に争いがない。

2  この引用例考案が、引用例(甲第3号証)に記載されているように、「ソケツトに装着した電球が振動等により漸次弛緩したり装着間隙より水湿(原文の「水温」が「水湿」の誤記であることは明らかである。)や塵埃が侵入して通電作用を阻害することを防止する簡単有効な装置に関する」(甲第3号証1欄19~22行)考案であって、「振動を受けても電球に弛緩を生じることがなく常に確実にソケツトに定着し得る状態にあらしめた弛緩防止装置」(同2欄2~4行)であり、「本案は以上のように電球はその螺糸金とソケツトの螺糸金間に介在したリング状体に支持されているのでその弾褥作用により被装着体が振動衝撃等を受けても適度の緩衝作用を発揮すると共に特に螺合部が螺解したり弛緩する憂いがなく、従つて前記従来のような弛緩による電球が外脱したり弛緩間隙より水湿塵埃が侵入して電気的障害を生じる憂いがなく従つて常に確実に発光する効果を奏する」(同2欄16~24行)ものであることが認められる。

すなわち、引用例考案は、電球とソケットの間の緩みを防止するという本願考案のものと共通する課題と、水湿や塵埃が侵入するのを防止するという本願考案にはない課題の両者を同時に解決するために、ソケットと電球の口金との間にゴム状部材を介在させ、その形状をリング状として電球の口金の全周に配置するとの技術を採用したものであることが明らかである。

3  電球とソケットとの間の良好な通電作用を妨げることとなる上記二つの現象は、本来それぞれ別個の原因に基づくものであり、引用例考案のように両者を一挙に防止する手段を講ずることが望ましいとしても、電球の使用場所等の諸条件によって、水湿や塵埃の侵入防止よりも緩み防止を重視する場合には、その解決のための手段を講じれば足りると考えることは、当業者にとってきわめて容易なことと認められる。

そして、「二つの物体間の接合力を強めて、換言すれば緩みを押さえて、接合するために二つの物体間に弾性を持つ板状のものを介在させることは日常経験していることであるし、その場合にそのような部材を、接合する物体に関して長手方向にするかそれに直交する方向にするかは、適宜なし得ることである」と審決の述べるところ(審決書4頁13~16行)が、一般論としては正しいものであることについては、原告も認めるところであるから、引用例に接した当業者が、その開示された技術事項を参酌して、ソケットと電球の口金との間の緩みだけを防止するために、引用例考案で採用された形状をリング状とするゴム状部材を電球の口金の全周に配置することに代えて、ソケットの長手方向に沿って板状又は棒状のゴム部材をソケットと電球の口金との間に介在させるようにすることは、きわめて容易に想到できることというべきである。

4  原告は、電気的接触を図らなければならないソケットと電球の口金の装着間隙に電気的接触を妨げる塵埃等の異物が侵入するのを防ごうと考えるのが普通であり、現に、引用例考案においても、そのように考えられているのであるから、ソケットと電球の口金の装着間隙に、塵埃よりはるかに大きい異物であるゴム状部材をわざわざ挿入して電気的接触を妨げるようなことは、引用例に接した当業者にとっても、きわめて容易に想到できることではないと主張する。

しかし、引用例考案においても、緩み防止のため、それ自体は電気接続を妨げるものであるゴム状部材をソケットと電球の口金の装着間隙に介在させていることは、本願考案におけると変わるところはなく、これにより、このゴム状部材が介在している箇所以外の箇所においてソケットと電球の口金との物理的接触を強固にすることによって、その間の電気的接続を確実にするためのものであることは、当業者のみならず多少の電気的知識を有する一般人にとっても自明の事柄と認められるから、原告の上記主張は失当である。

原告は本願考案の作用効果について種々主張するが、これらの作用効果は、本願考案の構成により通常生ずる作用効果であって、これを超えた格別のものとは認められず、また、きわめて容易に想到できる考案であっても、これが現実に実施されるかどうかは種々の条件によって決まることであることは、当裁判所に顕著な事実であるから、本願出願前に本願考案の構成のものが現実に実施されていなかったとしても、この事実は、本願考案の推考の困難性に結びつくものではなく、いずれにしても作用効果を前提として、本願考案に想到することの困難性をいう原告の主張は失当である。

5  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

平成3年審判第18633号

審決

名古屋市千種区今池三丁目9番21号

請求人 株式会社 三洋物産

愛知県名古屋市中川区荒子1丁目175番地 河清ビル2階 今崎特許事務所

代理人弁理士 今崎一司

昭和60年実用新案登録願第48944号「豆ランプの緩み止め構造」拒絶査定に対する審判事件(昭和61年10月15日出願公開、実開昭61-166468)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

この出願は、昭和60年4月1日に出願されたものであって、その考案の要旨は、平成3年5月22日付、平成3年10月23日付および平成5年7月31日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの、

「ソケットと豆ランプの口金との間に、前記ソケットの長手方向に沿って板状または棒状のゴム部材を介在させて、豆ランプをソケットに装着したことを特徴とする豆ランプの緩み止め構造」にあるものと認める。

これに対し、当審において、平成5年5月17日付けで通知した拒絶理由の概要は、本願考案はその出願前に日本国内において頒布された実公昭48-42781号公報(以下、引用例という。)に記載された考案に基づいて、その出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、極めて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない、というものである。

そして、引用例には、ソケットに装着した豆電球が振動によって漸次弛緩するのを防ぐための構造に関する考案として「電球の通電部と該電球を装着するソケットの通電部に、ゴムまたはこれと類似の絶縁性弾褥材よりなる薄肉のリング状体を介設した電球とソケットの弛緩防止装置」(実用新案登録請求の範囲)(以下、引用考案という。)が記載され、そして、第1、2図には、ゴムまたはこれと類似の絶縁性弾褥材よりなる薄肉のリング状体を豆ランプのソケットの長手方向に直交する周方向に介在させることが記載されている。

ここで、本願考案と引用考案とを対比検討すると、

本願考案の構成の口金は、その機能から見て引用考案における電球の通電部に相当するから、両者は、ソケットと豆電球、すなわち豆ランプ、の口金との間に、ゴム部材を介在させて、豆ランプをソケットに装着した豆ランプの緩み止め構造の点で一致し、

本願考案では、介在させるゴム部材として板状または棒状のものを用い、それをソケットの長手方向に沿って介在させているのに対し、引用考案では、介在させるゴム部材として薄肉のリング状体を用い、これをソケットに対して介在させる方向を明記せずに単に介在させるとしている、具体例にはソケットの長手方向に直交する周方向に介在させている、点で相違している。

相違点について検討する

両考案においてゴム状部材を介在させることの目的及び作用、効果において差がなく、そして、二つの物体間の接合力を強めて、換言すれば緩みを押さえて、接合するために二つの物体間に弾性を持つ板状のものを介在させることは日常経験していることであるし、その場合にそのような部材を、接合する物体に関して長手方向にするかそれに直交する方向にするかは、適宜なし得ることであるから、引用考案におけるゴム部材を板状のものとし、それをソケットの長手方向とすることは、当業者が極めて容易になし得たことと認める。

従って、この出願の考案は、前記引用考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法第3条第2項の規定により、実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年9月28日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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